五気と相生・相剋

陰陽五行説を読者は知っているだろうか？

陰陽座というバンドや陰陽師なども映画や小説などで題材となっており、なんとなく聞いたことはあるという方も多いのではないだろうか。

しかし、陰陽五行説となると、正確にその意味を説明できる方はどれくらいいるだろうか。

陰陽五行説とは古代中国の易といういわば占いから発展した思想で、宇宙や物事は全て原則として５つの気から成り立っているというものである。

５つの気とは、木・火・土・金・水　である。

伝説上の古代中国の王が創始したといわれており、国家の運営に大いに活用されたという。

その陰陽五行説は古代日本において、中国から渡ってきた。

いわば最先端知識を国家として輸入したわけだ。

これによって、例えば平安時代などは「方違え」（かたたがえ）などといって、出向く方角を占ったり、わざと遠回りなどしていい方角を選んだりなど、今でいえば「迷信」といわれてしまうような考え方と習慣となって日本に定着した。

これは様々な日本の風習などとして残っている。

陰陽五行説は、相生（そうじょう）と相剋（そうこく）によって説明される。

相生は先ほどの五気の要素が他の五気の要素を生み出すという流れ。

相剋は五気のある要素が他の五気のある要素を殺すという関係を表している。

相生は、木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、そして水は木を生むというもの。これが循環する。

木は擦り合わせたりすると摩擦で火を生じる。火は燃えると灰になり、土を生じさせる。土からは金属が採取され、金属は水滴を伴い、水を発生させる。水は木を育てる。

これが相生の理（ことわり）。

相剋は、金は木を剋し（殺し）、木は土を剋し、土は水を剋し、水は火を剋し、火は金を刻す。

これは、金属の斧などは木を切り倒す。木は根で土を痛めつけ縛り付ける。土は水を堰き止める。水は火を消す。火は金属を溶かす。この流れが循環する。

こういった他の要素を殺す関係性を相剋という。

では、こういった考え方がどのように、日本の民俗・習慣に定着したか。

例えば、豆撒きをする「節分」である。

節分は、豆を鬼は外、福は内といって投げたりして、家内安全、健康を願う行事とされている。その実は、春の順当な到来を願う行事である。

ではなぜ、豆を蒔くことが春の到来を願うことになるのか。

それは、こういう理由による。

豆は陰陽五行説の五気でいうところの、金になる。これは丸くて硬いことによって、金気に属するものとする。ところで、金剋木の理によって、金は木を殺すものである。木とは、陰陽五行説においては季節では春を表す。ちなみに夏は火、秋は金、冬は水である。なんとなくイメージできるのではないだろうか。

「金剋木」で表される金が木を殺すということは、金は春を殺すということであるわけだ。

これは春を迎える我々人にとっては、金気に属するものは大敵と言える。金気に属するものを徹底的に潰し、確実な木気、つまり春の到来を保障するために、金気は排除、壊滅させなければならない。

そういったわけで、金気である硬い豆を、まずは火で炒り、痛めつけ、最後には鬼にぶつけるという名目で外に投げ捨て、さらには福は内といいつつ、家の中の豆も喰い、平らげてしまうということによって、金気を壊滅させるのである。

これによって春の順当な到来を妨げる要素である金気を排除し、安心して春を迎えるということが可能となる。

これが迎春行事としての「節分」の本来の意味である。

このように、中国から渡ってきた陰陽五行説は、日本社会の民俗・行事・習慣の中に原型を留めて、しかし日本風にアレンジされて定着し、現在まで息づいているのである。

他にも、日本の各地に残る風俗習慣に陰陽五行説の影響が見受けられるものはあるが、それを語るのはまた別の機会に譲ろう。