住吉神楽に見られる陰陽五行説
稲荷様と狐と馬
私の地元には、大宮住吉神楽という神楽が伝わっている。この神楽で一番メジャーな演目が「稲荷様」が登場する稲作指導の演目である「倉稲魂命種蒔の座」(うがのみたまのみことたねまきのざ)である。
この演目は、稲作指導の内容で、神楽は家内安全・五穀豊穣を祈願し奉納されるものと考えられてきた。
この地も元は農家が昔は多く、このような神楽がもてはやされたことは想像に難くない。
この演目では、主な神様として倉稲魂命、すなわち稲荷様とその使いである天狐という狐、そして農夫であると思われるモドキという道化の3者が登場する。
この演目のフィナーレ、最後の場面で、天狐がモドキの背に馬乗りになってめでたしめでたしとなって帰るという筋立てになっている。
この奇妙な風景は何を表しているのだろうか。ただ単にアクロバティックな演技を見せて、観客を喜ばせているだけだろうか。何か意味があるのだろうか。
火生土の原理
狐は黄色い。陰陽五行説の五気でいえば、木火土金水のうち土にあたる。ところで馬は、12支において火の最も盛んな象を表す。五行相生の理により、「火生土」で火は土を生みだし、土を扶け強化する関係にある。馬上の狐とは、馬に扶けられて安定化している狐の様子を表す。つまり、狐=土、馬=土を扶ける火、ということでこの馬上の狐は、土の最も安定化している様相を表しているのである。
「土剋水」で農作冷害を防ぐ祈願
では、なぜ、これほどまでに農作祈願の演目「稲荷様」において、馬上の狐が強調されフィナーレに盛大に演じられるのか。
それは、馬上の狐という最も強い「土」を表した象徴を最後に演じて観客に見せ、共に豊作を祈願するためである。
なぜ、「土」の象徴が豊作祈願になるのかというと、豊作とは、冷害が敵である。そして冷害は五気でいうところの水気そのものである。水気を殺すのに最も適しているのは、「土剋水」の原理で土である。だから、「土」を最も象徴した馬上の狐を最後に演じて、冷害を防ぐ祈願を皆で行うのである。
これが、大宮住吉神楽の稲荷様の演目で、モドキの背に馬乗りになって天狐が帰るフィーナーレを最後に行っている理由である。
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